潰瘍性大腸炎・クローン病
潰瘍性大腸炎・クローン病
炎症性腸疾患(IBD)には、細菌や薬剤などが原因で起こる特異性と、原因がはっきりわからない非特異性があります。感染性腸炎、薬剤性腸炎、虚血性腸炎、腸結核などは特異性の炎症性腸疾患で、原因を取り除く治療を行います。一方、非特異性は、明らかな原因はわかっていないものの、近年の医学の進歩によって疾患の仕組みが少しずつ解明されています。疾患機序として、本来、体を守るはずの免疫機構が異常を来し、自分の免疫細胞が腸の細胞を攻撃してしまうことで腸に炎症が起こることがわかっています。
非特異性の炎症性腸疾患には、主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があり、いずれも慢性的な下痢や血便、腹痛、体重減少、発熱などの症状を伴います。若い人に発症することが多く、長期的には病状が悪い時期(再燃期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返す特徴があります。通常、生命にかかわることはありませんが、一旦発症すると根治することはまれで、生涯治療が必要となる病気です。ともに医療費の一部を国が補助する特定疾患(難病)に指定されています。
非特異性のIBDは指定難病で、その患者数も年々増加していることから、新しい研究や薬の開発が盛んに行われています。近年は、有効な治療薬が数多く出ているため、症状をコントロールできるケースが多く、患者様の生活の質(QOL)は確実に向上しています。適切な治療で症状を抑えることができれば、健康な人とほとんど変わらない生活をおくることができ、妊娠や出産も可能です。
IBDは早期に適切な診断を受けることが重要とされています。疑われる症状や不安がある場合は、お気軽に受診ください。
繰り返す症状
発見のきっかけとなる症状
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんやただれ、潰瘍が発生します。通常、粘膜から粘膜下層までの表層に限られ、症状の強さから「軽症」「中等症」「重症」「劇症」に分類されています。病変は直腸から始まり、連続的に上方(口側)へと広がります。炎症が直腸だけの「直腸炎型」、直腸から下行結腸までの「左側大腸炎型」、大腸全体に及ぶ「全大腸炎型」に分けられ、炎症の範囲が広いほど重症化しやすいとされています。発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳ですが、若年者から高齢者まで年齢を問わず発症します。重症の患者様は少なく90%が軽症から中等症で、再燃期と寛解期を繰り返しながら慢性の経過をたどります。
特徴的な症状は頻繁に起こる腹痛や激しい下痢で、粘液を伴った血便もみられるようになります。重症化すると、発熱のほか長期間血便が出ることによる貧血症状が現れたり、栄養摂取が難しくなることから体重が減少したりすることもあります。さらに激しい炎症が続き、腸管壁の深くまで炎症が進行すると、腸に様々な合併症(腸管合併症)が起こります。腸管合併症には、大量出血、狭窄(きょうさく:腸管内腔が狭くなる)、穿孔(せんこう:腸に穴があく)、中毒性巨大結腸症(腸管の運動が低下し、腸内にガスや毒素が溜まり発熱や頻脈などの中毒症状が現れる)などがあります。また、長期にわたって罹患していることで大腸がんの発症リスクが高まるとも言われています。腸管以外の合併症には、関節、皮膚や眼の病変、アフタ性口内炎、結節性紅斑、肝胆道系障害などがあります。
問診で、便の状態(下痢の回数や血便の頻度)、腹痛の程度、発熱などの症状について確認します。その後、便検査と血液検査により、他の感染症がないことを確認したうえで、血便の有無、貧血や炎症の有無、栄養状態などを確認します。また、解熱鎮痛薬などでもIBDに似た腸炎が起こることがあるため、服用しているお薬について確認します。
診断は、大腸内視鏡検査によって炎症の状態や範囲を調べます。潰瘍性大腸炎の内視鏡像では、大腸粘膜に炎症が起こることで、びらんや潰瘍が認められます。内視鏡検査時に粘膜の一部を採取して病理検査(採取した組織を顕微鏡でより詳しく観察する検査)を行ったり、腸内のガスの状態を調べるため腹部エックス線検査を行ったりすることもあります。
潰瘍性大腸炎の治療の主体は薬物治療となります。治療目標は、患者様の症状が消失する寛解状態へと導き、その状態を長く維持するということです。つまり、炎症が起こって症状が強く現れる「再燃期」には炎症を抑えながら寛解を目指す治療を行い、症状が出ていない「寛解期」には、この状態を長く維持するための治療を行います。炎症を抑えることで下痢、下血、腹痛などの症状を軽減できます。寛解状態を長く維持するためには、症状が治まっていても毎日の服薬を欠かさないことが重要です。
治療薬は、病変に直接作用して炎症を抑える5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤という炎症抑制薬が中心となります。飲み薬が一般的ですが、直腸炎型、左側大腸炎型では、浣腸タイプや坐薬など肛門から注入する方法(局所投与)も有効です。5-ASA製剤は寛解の導入だけでなく、寛解の維持にも用いられ、ほとんどのIBDの患者様で服用されています。
5-ASA製剤の効果が不十分な場合は、ステロイド剤の内服や局所投与が選択されます。ステロイド剤は強力な炎症抑制作用を有する薬剤で、再燃期に炎症を落ち着かせて寛解を導入する効果に優れていますが、長期間服用すると様々な副作用を起こすため、期間を限定して使用します。
ステロイド剤でも十分な効果がない場合には、免疫反応を抑制する免疫調節薬や、腸管の炎症の原因となるTNF-αという物質を抑える抗TNF-α抗体薬が用いられます。抗TNF-α抗体薬は有効性が高いだけでなく、一度、状態が安定するとその状態を維持する効果も期待できます。白血球を異常に活性化させているIL-12・IL-23という物質を抑えることで効果を発揮する抗IL-12/23p40抗体薬を用いることもあります。
1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院のクローン医師らによって、はじめて報告されたことからクローン病と呼ばれています。
クローン病は、口から肛門まで消化管のどの部位にも炎症が生じる可能性があり、炎症を起こした部分は赤くただれたり、剥がれて潰瘍を形成したりします。増悪すると瘻孔(ろうこう:腸に深い潰瘍ができ皮膚やほかの臓器との間に通路ができる状態)や、狭窄といった合併症を起こすこともあります。炎症が起こる範囲によって病型があり、主に小腸にできる小腸型、小腸と大腸にできる小腸・大腸型、主に大腸にできる大腸型に分類されています。多くみられる部位は小腸と大腸で、特に小腸末端部(回盲部)付近に好発します。炎症や潰瘍は、粘膜の表面だけではなく腸壁の深部にまで及ぶことがあり、また、非連続性で飛び飛びにできることが特徴です。10~20代の若年者に多く、男性は20~24歳、女性は15~19歳に発症のピークがあります。男女比は2:1で男性に多くみられます。
クローン病も潰瘍性大腸炎と同様に、症状が強い再燃期と、落ち着く寛解期をゆっくり繰り返す特徴があり、治療では、いかに早く寛解期に導き、再燃期に入るのをいかに防ぐかということに焦点が当てられます。
クローン病の症状は患者様によって様々で、病気の状態によっても変わります。代表的な自覚症状は持続的な腹痛と下痢で、半数以上の患者様にみられます。発熱、血便、体重減少、全身倦怠感、貧血、腹部のしこり、さらに肛門の異常(切れ痔、肛門の潰瘍、肛門周囲膿瘍、痔ろうなど)が現れることもあります。潰瘍性大腸炎と異なり、肛門部の病変を併発する特徴があります。若年者でこういった症状が数日~数週間続くときは、クローン病の可能性があります。自覚症状は自然に治まることもありますが、クローン病の場合は、何度も再発を繰り返し、ゆっくり悪化していきます。
クローン病の炎症は浅い粘膜から始まり、深い粘膜層へと進行します。腸管壁の深くまで炎症が進むと、腸に様々な合併症(腸管合併症)が起こります。腸管合併症には、狭窄(腸管内腔が狭くなる)、穿孔(腸に穴があく)、瘻孔(腸どうし、あるいは腸と他の臓器や皮膚がつながる)などの他、まれに大量出血や大腸・肛門がんもみられます。腸管以外の合併症には、関節、皮膚や眼の病変、アフタ性口内炎、結節性紅斑、肝胆道系障害などがあります。クローン病は重症化すると、効果の強い薬を用いても病態が改善しない、もしくは術後に再手術となるケースも珍しくありません。
問診で、便の状態(下痢の回数や血便の頻度)、腹痛の程度、発熱などの症状について確認します。その後、便検査と血液検査により、他の感染症がないことを確認したうえで、血便の有無、貧血や炎症の有無、栄養状態などを確認します。また、解熱鎮痛薬などでも、IBDに似た腸炎が起こることもあるので、服用しているお薬について確認します。診断は、大腸や小腸の内視鏡検査やバリウムを用いたX線造影検査、病理組織検査などを行います。クローン病の内視鏡像では、縦長の潰瘍(縦走潰瘍)、腸粘膜がぼこぼこと盛り上がり石を敷き詰めたような状態(敷石像)、口内炎のような浅い潰瘍(アフタ)、形が整っていない潰瘍(不整形潰瘍)などが認められます。また、腸に狭窄や瘻孔、膿瘍などが疑われる場合は、腹部のCT検査やMRI検査を行うこともあります。
クローン病も潰瘍性大腸炎と同様に、現状、根治させる方法はありません。そのため、炎症や潰瘍が頻発する再燃期を、なるべく早く寛解へと導き、寛解期に入ったら、その状態を長く持続していくというのが一般的な治療方針となります。
治療には内科的治療(栄養療法や薬物治療)と手術による外科的治療があり、内科的治療が主体となることが多いですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科的治療が必要となります。
病気の活動性や症状が落ち着いていれば、通常の食事は可能ですが、食事による病態の悪化を避けるために日々の食事をコントロールすることも重要です。三大栄養素(蛋白質、炭水化物、脂質)のうち脂質は、体内で炎症に関係する物質の合成に使われるため、脂質の多い食事を避けたり、脂質の少ない成分栄養剤を服用したりします。調子の悪いときには低脂肪・低残渣の食事がすすめられますが、患者様によって病変部位や消化吸収機能が異なるため、主治医や栄養士と相談しながらご自分にあった食品を見つけていくことが大切です。
また、通常の食事をいったんやめて、代わりに経腸栄養剤の服用によって栄養をとる栄養療法があります。一日に必要なカロリーの全てを経腸栄養剤で摂取する「完全経腸栄養療法」と、一日に必要なカロリーの約半分を経腸栄養剤で摂取する「部分経腸栄養療法」の二つがあり、クローン病による腹痛や下痢、発熱といった激しい症状を大きく改善することがわかっています。
症状のある活動期には、主に5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)やステロイド剤を用いた薬物療法で炎症を抑えていきます。ステロイド剤は炎症を抑える力が強く、即効性があるため、症状が激しいクローン病に対して非常に有効です。多くの場合、つらい血便や下痢といった症状が短期間に改善しますが、長期間服用すると様々な副作用を起こすため、期間を限定して使用します。これらの治療で十分な効果がない場合には、免疫反応を抑制する免疫調節薬や、抗TNF-α抗体薬、抗IL-12/23p40抗体薬といった生物学的製剤が用いられます。また、薬物治療ではありませんが、炎症を起こしている血液成分を取り除く血球成分除去療法が行われることもあります。
症状が落ち着いている寛解期には、薬物療法や栄養管理で寛解状態の維持を目指していきます。なお治療は、血液・血球検査を実施し、CRP(C反応性蛋白)の値から、治療への反応と改善度を評価しながら進めます。
高度な狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対しては外科手術が行われます。その際には腸管をできるだけ温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。狭窄では狭窄部を内視鏡バルーンで拡張する治療が行われることもあります。また、痔ろう(膿が出る穴を伴う痔)などの肛門周囲に症状があるときにも手術が必要となる場合があります。